非線形科学と統計科学の周辺 ミニワークショップ

文部科学省「21世紀COEプログラム(動的機能機械システムの数理モデルと設計論」の援助を受け実施されています。


研究会趣旨

  非線形科学の発展に伴い、線形からは予想できない質的に新しい現象や、平衡系から遠く離れたある種の秩序状態の出現機構が見出されている。これらは、生命現象などの解明の糸口をつかむきっかけになるのではないかと期待されているが、その研究の多くは順問題のレベルに留まっており、実験データからの帰納的な情報抽出は、その時々の研究者の直感に頼っているのが実情である。
 しかしながら、生物(例えば脳など )を非線形科学の観点から捉える際に、間接的な実験データしか得られないことは本質的な問題であり、数理モデル研究の大きな限界となっている。たとえば、 脳からスライスして取り出したニューロンの特性は、脳の中で動作しているニューロンと本質的に異なり、個別的に切り出して研究することが不可能ではないかとの疑念を表明している実験系研究者もいる。これは、脳の環境を忠実に整えて計測すればよいという単純な話ではなく、ニューロンとその周囲の環境が相互作用して自らの環境自身を決めている可能性(入力に応じてある種の物質を放出するなど。遺伝子の発現などは典型的な例だろう)を考慮すると、それが(生命)現象の本質かも知れない点が問題なのである。
  そこで、間接的なデータから本質を抜き出す手法として、統計学や機械学習への関心や期待が高まっている。特に、最近話題 となっているBMI(Brain Machine Interface)の研究は、脳研究者の間に統計的逆問題への対峙を余儀なくさせている。一方、統計科学の側では、非線形時系列解析やニューラルネット などの諸手法が非線形現象の研究に用いられ成果をあげてきた。しかし一方で、多彩な現象や非線形科学の問題意識の理解という点では大きく異なる立場にある。一般に、非線形現象の研究者は定性的な理解の目的で作られたモデルのパラメータをデータ解析によって決定することを求める傾向が強く、統計科学の研究者は汎用の手法によって高い予測能力を得るという点に注力しがちであり、両者のギャップを埋めることは容易ではない。本研究会ではこうした問題意識に基 づき、カーネル法や各種の多変量解析の手法を横糸に、BMI、カオスや複雑な力学系 の時系列などを縦糸として、 ふたつの異なる問題意識がどのように交叉し得るかを予備的に論じ、新しい分野を切り開く可能性を探る第一歩とする。

本ミニワークショップは、次の二つの独立した会合から構成される。
研究会 少人数の共同研究者を参加者として、発表者が各分野の研究を中心に紹介する。
特別集中講演  若手の博士課程の学生・研究者に統計科学で話題になっているマルコフ連鎖モンテカルロ法, および,逐次モンテカルロ法のアルゴリズムを新たな切り口で紹介する。

「非線形科学と統計科学の周辺」 研究会プログラム
日時 2007年2月20日  場所 京大吉田キャンパス 工学部8号館3階共同5講義室

10:00-10:30 青柳  富誌生 京大情報         「非線形科学と統計科学の可能性」  
10:30-11:00  中尾 裕也  京大理          「時空カオスの動的構造の統計解析の試み」 
11:00-12:00  柳田  達雄   北大電子研         「興奮場におけるパルス・ダイナミクス」  
昼食  
13:30-14:30 伊庭 幸人   統数研            「緩和モード解析とその周辺(仮題)」  
14:30-15:30  野村 真樹   JST CREST・京大情報   「カーネル法を用いた時系列データの弁別」  
16:00-17:00  末谷  大道   JST ERATO・東大生産研 「経験的モード分解に基づくカオス同期の解析」
17:30-18:00 中江 健   京大情報     「位相応答曲線の統計的計測の試み」


連絡先

〒606-8501 京都市左京区吉田本町 京都大学大学院情報学研究科
 複雑系科学専攻 複雑系構成論講座(複雑系基礎論分野)
  TEL 075-753-5939 FAX 075-753-5924  青柳 富誌生